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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)184号 判決

原告

日昭興産株式会社

被告

特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和54年審判第15644号事件について昭和57年6月22日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和50年12月15日、名称を「函、枠等の閉蓋装置」とする考案)以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(昭和50年実用新案登録願第167969号)をしたが、昭和54年10月22日拒絶査定があつたので、同年12月20日審判を請求し、昭和54年審判第15644号事件として審理されたが、昭和57年6月22日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年7月31日原告に送達された。

2  本願考案の要旨

方形な枠状受部材の少なくとも一方の対向する辺の内面に、該受部材の平面に対する鉛直線に対し3度ないし10度の範囲で内側に向う傾斜面を形成し、受部材に嵌合する蓋部材の側面には前記傾斜面に一致する斜面を形成してなる函、枠等の閉蓋装置。

(別紙図面(1)参照)

3  審決の理由の要旨

(1)  本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  ところで、実公昭48―40605号実用新案公報(以下「引用例」という。)には、「長方形状に組まれた外枠2の一方の対向する辺の内面に、該外枠2の平面に対する鉛直線に対して内側に向う傾斜面を形成し、該外枠2に嵌合する蓋体1の側面には前記傾斜面に一致する斜面を形成してなる側溝蓋の閉蓋装置(別紙図面(2)参照)」が記載されている。

(3)  そこで、本願考案と引用例記載の考案とを対比すると、引用例記載の考案でいう「外枠2」が本願考案の「枠状受部材」に、同じく「蓋体1」が「蓋部材」に、また、同じく「側溝蓋の閉蓋装置」が「函、枠等の閉蓋装置」に相当するものであるから、両者は、方形な枠状受部材の一方の対向する辺の内面に、該受部材の平面に対する鉛直線に対して内側に向う傾斜面を形成し、受部材に嵌合する蓋部材の側面には前記傾斜面に一致する斜面を形成してなる函、枠等の閉蓋装置である点で一致しており、ただ、本願考案においては、前記傾斜面の傾斜角度を3度ないし10度の範囲に限定しているのに対して、引用例記載の考案には、そのような数値限定がされていない点で一応相違する。

前記相違点ついて検討すると、引用例に示されるような傾斜面を備えた枠状受部材を構築する場合、その傾斜角度をどの程度にするかは、それに嵌支される蓋部材の安定性等を考慮し、その具体的な設計に当たり当然に選定すべき事項であり、しかも、本願考案で選定した傾斜角度も、この種傾斜角度として極く普通の範囲のものであるから、結局、該相違点は引用例記載の考案の具体化に伴う実施態様として、極く常識的な傾斜角度に関する数値限定がされているか否かの程度の差異にすぎないものであつて、かかる点をもつて、本願考案が引用例記載の考案と相違し、別異の考案を構成するものということはできない。

(4)  したがつて、本願考案は、その出願前に頒布された引用例記載の考案と実質的に同一であるから、実用新案法第3条第1項第3号の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決は、本願考案と引用例記載の考案との対比において一致点の認定を誤り、かつ、相違点についての判断を誤つたものであり、違法であるから、取消されねばならない。

(1)(1) 審決は、引用例には、「長方形状に組まれた外枠2の一方の対向する辺の内面に、該外枠2の平面に対する鉛直線に対して内側に向う傾斜面を形成し、該外枠2に嵌合する蓋体1の側面には前記傾斜面に一致する斜面を形成してなる側溝蓋の閉蓋装置」が記載されていると認定している。

しかしながら、「蓋体1の側面には前記傾斜面に一致する斜面を形成してなる」点は、引用例には記載されていない。

すなわち、引用例記載の考案は、側溝蓋の気密装置に関するものであるが、外枠2の対向する辺の内面に形成した傾斜面と該外枠2に嵌合す蓋体1の側面に形成した斜面との傾斜角度は一致していないので、外枠2に蓋体1を嵌合した時外枠の傾斜面と蓋体の斜面との間に隙間が存在する。また、ゴムや合成樹脂等からなる気密材8、18、18'は外枠ではなく、隣り合う蓋体1の間を気密に閉塞するだけのものであるから、別紙図面(2)第2図で示すように蓋体1と気密材8とが密着していたとしても、本願考案とは構成を異にする。

これに対し、本願考案は、道路に埋設状に設置される函、枠等の閉蓋装置に関するものであつて、蓋部材が自動車等の通過により微動したり、がたつきが生じたりすることがなく、また、局部的大荷重によつてずり上ることがないように、実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの構成とし、受部材に嵌合する蓋部材の側面には、「前記傾斜面に一致する斜面を形成し」たものであり、外枠の内面と蓋体の側面とに単に傾斜面を形成したにすぎない引用例の構成とは別異のものである。

(2) この点に関し、被告は、引用例の別紙図面(2)第4図に本願考案と同じ構成が記載されていると主張する。

しかしながら、右第4図は、蓋体1と外枠2との傾斜面が異なるし、外枠2に対して蓋体1を傾斜面で支えているのではなく、蓋体の側面上縁部に形成した弧状隆出部を外枠の内面上縁に形成した弧状部分により支えているものであつて、本願考案とは構成を異にする。

また、被告は、引用例の別紙図面(2)第7図の説明を引用し、引用例記載の考案の構成について、これを、「外枠2に嵌合する蓋体1の側面には(該外枠2に形成した)傾斜面に一致する斜面を形成した」と認定した点に誤りがないと主張する。

しかしながら、引用例は、第7図について、外枠21と内枠25とを外枠21の下端縁内方に突出した突縁22に設けたゴムや合成樹脂の弾性条片24で気密にする旨説明(引用例公報第3欄第1行ないし第7行)しているが、内枠25を外枠21の傾斜面で支持するとは説明していない。そして、第7図によると、内枠25は、上方の弧状面と下方の傾斜面とが外枠21の内面に接しているが、上方の弧状面によつて外枠21に強く支えられているものである。すなわち、内枠25に荷重Pが加わると、上方の弧状面aには垂直な力P1、下方の傾斜面bには垂直な力P2が作用し、このP1、P2によって内枠25を支持することになるが、P1の水平力P1Lと垂直分力P1N、及びP2の水平分力P2Lと垂直分力P2Nとの関係をみると、a面の水平分力P1Lはb面の水平分力P2Lより小さいから、b面が外方に押圧され易く、したがつて、内枠25はb面で沈み易く、a面で強く支持されることになり、また、a面の垂直分力P1Nはb面の垂直分力P2Nよりきわめて大きく、この垂直分力は、a面、b面での内枠の支持力であるから、a面とb面とにおいて内枠25と外枠21とが接触していても、内枠25はa面で支えられているもので、b面では支えられていない。

本願考案における枠状受部材と蓋部材との傾斜は、本願考案特有の作用効果を奏するための構成、すなわち、蓋部材にどのような荷重が加わつてもがたついたり跳ね上ることがなく、かつ、蓋部材が受部材に強固に喰込みすぎたりしないための構成であつて、引用例記載の考案の作用効果である気密とは全く関係がない。

(2)(1) 審決は、「傾斜角度をどの程度にするかは、それに嵌支される蓋部材の安定性等を考慮し、その具体的な設計に当たり当然に選定すべき事項である。」と判断している。

しかしながら、本願考案のように、道路に埋設状に設置される函や枠では、枠状受部材内面の傾斜面とこの枠状受部材に嵌合されて傾斜面で支えられる蓋部材側面の斜面との傾斜角度が極めて重要である。すなわち、蓋部材の上面には、全体的に又は部分的に大荷重が加わるが、どのような荷重が加わつても、蓋部材ががたついたり、跳ね上つたりしない構造でなければならないし、蓋部材が受部材に強固に喰込んだり又は蓋部材が撓むことがあつてはならない。

本願考案は、右のようなことがないように提案されたもので、傾斜角度を3度ないし10度に限定したのは、3度以下であれば、蓋部材の嵌入が強くなつて著しく開放しにくくなつたり、あるいは受部材の内部に落ち込む危険があり、また、10度以上では、上面の一側に大きな荷重が加わつたとき、他側がずり上つて跳ね上り、開放する危険があるためである。そして、閉蓋状態では受部材と蓋部材とが一体化し、蓋部材が上下左右に激しく微動したり、ずり上らないので、自動車等の通行が頻繁な道路に設けたとしても、長年月摩耗したり道路面が破壊することがない。更に、構造が簡単なばかりでなく、開閉操作が容易で、しかも、長期間の使用に耐えうる実用的効果の高いものである。

このような作用効果は、引用例記載の考案には到底期待できないものである。したがつて、本願考案で選定した傾斜角度は、作用効果との関係で極めて重要な構成であるから、これを「具体的な設計に当たり当然に選定すべき事項」であり、「傾斜角度として極く普通の範囲のもの」とした審決の判断は誤りである。

(2) 被告は、傾斜面の角度を3度ないし10度と限定した意義は極く常識的であると主張する。

しかしながら、本願考案において傾斜面の角度を限定した意義は、前述のとおりであり、このような効果を奏する本願考案の構成は、本願考案特有のものであつて、被告が主張するように極く常識的なものではない。

昭和14年実用新案出願公告第1726号実用新案公報、実用新案出願公告昭29―10270号実用新案公報(以下「周知例」という。)は、いずれも円形マンホールであつて、本願考案のように方形な枠状受部材ではない。また、周知例には、蓋や受枠の傾斜角度について説明がなく、図面から判断すると、傾斜角度が受部材の平面に対する鉛直線に対して10度以上であり、かつ、円形であるから、ずり上がりやがたつき防止等を考慮する必要がほとんどない。したがつて、周知例には、本願考案の奏する作用効果が記載されておらず、構成が全く異質であるから、周知例から本願考案における傾斜角度が常識的とされることはない。

第3被告の答弁及び主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の審決の取消事由についての主張は争う。

審決の判断は、正当であつて、審決には原告主張のような違法の点はない。

(1)(1) 引用例の別紙図面(2)第4図には、本願考案の構成要件である「方形な枠状受部材の一方の対向する辺の内面に、該受部材の平面に対する鉛直線に対して内側に向う傾斜面を形成し、受部材に嵌合する蓋部材の側面には前記傾斜面に一致する斜面を形成してなる函、枠等の閉蓋装置」が記載されている。

すなわち、方形な枠状受部材に相当する外枠2の一方の対向する辺の内側に形成された傾斜面は、その傾斜角度が全て一様ではないが(本願考案においても、傾斜面が一様であるとの限定はされていない。)、外枠2の平面に対する鉛直線に対して内側に向う傾斜面であることは何ら疑う余地がない。方形な枠状受部材に嵌合する蓋部材に相当する蓋体1の側面に形成する傾斜面については、何ら説明はなされていないが、間隔を有するとの特段の説明はないから、該傾斜面の大部分が一様な傾斜を有しており、その一様な傾斜面において、外枠2と蓋体1とが嵌合密着されていることが明らかである。

したがつて、蓋体1の側面に形成された傾斜面は、外枠2の内側に形成された傾斜面と一致するものであり、本願考案における枠状受部材及び蓋部材の各傾斜面の傾斜が一様なものであると仮定しても、本願考案の構成と右第4図に記載されているものの構成とは、実質的に同一である。

そして、右第4図に記載された閉蓋装置は、前述のとおりの構成を有するものであるから、気密効果はもとより、本願考案と同じく上面に大荷重が加わつた際に、蓋体1ががたついたり、跳び上つたりしない等の作用効果を奏することは明らかである。

(2) 引用例は、第7図について、方形な枠状受部材に相当する外枠21の一方の対向する辺の内面に形成された傾斜面と、該傾斜面に嵌合する蓋部材に相当する内枠25の側面に形成された傾斜面との嵌合態様については、特に説明はされていないが、同図面の記載からみて、外枠21の一方の対向する辺の内面に、外枠21の平面に対する鉛直線に対して内側に向う傾斜面が形成され、外枠21に嵌合する内枠25の側面に右傾斜面に一致する斜面が形成され、両者が密封状に嵌合されていることは明らかである。

そして、引用例には、蓋体と外枠に関して、「外枠2と内枠3との係合において、第4図図示の如く、上縁部を円弧状の曲面として密着支持する以外、第7図図示の如く、外枠21下端縁内方に突出した突縁22に設けた上向きの嵌合溝23に前記気密8と同様、ゴムや合成樹脂からなる弾性条片24を嵌着して内枠25の下端部を載置せしめて、内外枠間を気密にするものでもよい。」(引用例第3欄第1行ないし第7行)と記載されているから、引用例記載の考案は、隣接する蓋体間のみならず該蓋体と外枠の係合面全体を気密に保持することを意図したものであることは明らかである。

したがつて、引用例第7図においては、内外枠間を気密に保持するため、内枠25と外枠21の突縁22を弾性条片24により気密に保持するばかりでなく、外枠21に形成された斜面に内枠25が密封状に嵌合される構成を採つているから、審決が引用例記載の考案について、「外枠2に嵌合する蓋体1の側面には(該外枠2に形成した)傾斜面に一致する斜面を形成した」と認定した点に誤りはない。

(2) この種閉蓋装置として、その傾斜角度が3度ないし10度程度のものは、周知例にみられるように、従来より極く普通に知られているものであり、しかも、本願考案において、傾斜角度を3度ないし10度という数値で限定した意義も極く常識的なものであるから、右数値限定の点につき、引用例記載の考案の具体化に伴う常識的な実施態様とした判断に誤りはない。

第4証拠関係

本件訴訟記録中書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

(1)(1) 成立に争いのない甲第2号証によれば、引用例記載の考案は、側溝蓋の気密装置に関するものであつて、「考案の詳細な説明」には、実施例として、「1は長方形状に組まれた外枠2に順次嵌設される複数個の蓋体で、型材を方形状に組立てた内枠3の下端方に設けられた内向きの載置突縁4に蓋板5を載置し、内枠3と蓋体5を螺子等で止着して得られる。この蓋体1を構成する内枠3は、少なくとも隣接する蓋体1と相対向する外側壁は外方に突出せしめた上縁部6を残して上方から下方に向つて内方に傾斜する曲面状凹面7を有している。」(第1欄第29行ないし第37行)構成の装置が記載され、外枠2と内枠3との係合の態様が別紙図面(2)第4図のとおり示されていること、更に他の実施例として、「第5図ないし第7図は他の実施例を示す断面図で、……外枠2と内枠3との係合において、第4図図示の如く、上縁部を円弧状の曲面として密着支持する以外、第7図図示の如く、外枠21の下端縁内方に突出した突縁22に設けた上向きの嵌合溝23に、前記気密材8と同様、ゴムや合成樹脂からなる弾性条片24を嵌着して内枠25の下端部を載置せしめて、内外枠間を気密にするものでもよい。」(第2欄第27行ないし第3欄第7行)との構成の装置が記載され、外枠21と内枠25との係合の態様が別紙図面(2)第7図のとおり示されていることが認められる。

(2) そこでまず、引用例の第4図について検討すると、同図面の記載及び前記考案の詳細な説明の記載によれば、右実施例に係る引用例記載の装置には、外枠2の平面に対する鉛直線に対して内側に向う傾斜面が形成され、かつ、外枠2に嵌合する蓋体1の側面に傾斜面が形成されていることが明らかであるが、蓋体1の側面に形成される傾斜面は、外枠2の前記傾斜面と一致する斜面であることを認めるに足りる記載はなく、かえつて、「外枠2と内枠3との係合において、第4図図示の如く、上縁部を円弧状の曲面として密着支持する。」(第3欄第1行ないし第3行)と記載され、第4図には、その説明を裏付けるように、外枠2と内枠3の各傾斜面はそれぞれの上縁部において穏やかな円弧状に密着しているが、傾斜面の中間部分から下方部分に至るに従って、それぞれの傾斜角度が異なるため、隙間が存在するものとして図示されていることからみても、蓋体1を構成する内枠3の側面に形成された傾斜面が外枠2の内側に形成された傾斜面と一致するものということはできない。

(3) そこで、更に引用例の第7図について検討すると、第7図については、引用例には、前述のとおり、「第7図図示の如く、外枠21の下端縁内方に突出した突縁22に設けた上向きの嵌合溝23に、前記気密材8と同様、ゴムや合成樹脂からなる弾性条片24を嵌着して内枠25の下端部を載置せしめて、内外枠間を気密にするものでもよい。」と記載されているほか、外枠21に対して内枠25を支持することについて、考案の詳細な説明において、記載はない。

しかしながら、前掲甲第2号証によれば、引用例の第7図に記載された実施例に係る装置においても、同図面の記載からみて、当然内枠は外枠により支持されているものと認められる。そして、第7図は、前述の第4図に記載された実施例に係る装置とは異なり、外枠の内面と内枠の外側面とは、両者の下端部においても傾斜面が一致して密接嵌合していることが明らかであり、これに付加して、気密効果に対する密接支持を更により確実にするため、外枠21の下端縁内方に突出した突縁22に設けた上向きの嵌合溝23に弾性条片24を嵌着し、これに内枠25の下端部が載置されるようにしたものであり、この内枠の下端部と弾性条片との密着は、外枠と内枠との上縁部から下方に向う側面の互いに一致した傾斜面により内枠が外枠に支持される構成を前提とすることは、外枠に対して内枠が取付けられた状態を示す第7図の態様から、第4図の図示と対比して、当然に理解しうるところである。そして、引用例の第7図に示すように内枠と外枠との間に隙間のない、外枠の傾斜面と内枠の傾斜面の傾斜が一致する構成の装置は、本願考案と同一の構成を示すものであるから、本願考案と同じく、蓋部材の上面に荷重が加わつても蓋部材ががたついたり、跳ね上つたり、蓋部材が受部材に強固に喰込みすぎたりしない作用効果を奏する点(本願考案が右の作用効果を奏することは、当事者間に争いがない。)において本願考案と異なるものではない。

原告は、引用例の第7図によると、内枠25は、上方の弧状面と下方の傾斜面とが外枠21の内面に接していても、内枠25は上方の弧状面で支えられており、下方の傾斜面で支えられているものではないと主張する。

しかしながら、一つの傾斜面のなかに、傾斜角度の異なる面がある場合、傾斜角度の異なる面について内枠を支える力を対比すると、その力に差異のあることは力学上当然であるが、このことは傾斜角度の異なる面のうちのある一面だけで内枠を支えていることを意味するものではなく、引用例の第7図に記載された実施例に係る装置において、内枠25の支持は、外枠の上縁部のみによりされ、それ以外の嵌合部分ではされないということにはならない。

そして、前掲甲第2号証によれば、前記第7図記載の装置においても、水平面に対し傾斜角度が大きい嵌合部分では傾斜の緩やかな上縁の嵌合部分に比して、閉蓋状態で内枠に高荷重が加わつた場合に大きい抗しうる力を有しているものと認められ、本願考案における「閉蓋状態では、受部材と蓋部材とが一体化し、蓋部材が上下左右に激しく微動したりずり上らない」効果を、同様に奏しうることは明らかである。

(2) 前掲甲第2号証によれば、引用例には、傾斜面の傾斜角度を3度ないし10度の範囲に限定した記載はない。しかしながら、成立に争いのない乙第1号証、第2号証及び弁論の全趣旨によれば、本願考案の属する閉蓋装置の技術分野において、本願考案の出願前マンホール等の蓋体を枠体にほぼ3度ないし10度の範囲の傾斜角度により支持することは、普通に行われていたことが認められるから、この限定に格別技術上の特徴があるものといえず、また、この数値限定による作用効果も引用例記載の考案に周知の数値限定を採用したことにより当然奏する作用効果であつて、本願考案に特有の作用効果ということはできない。

したがつて、本願考案で選定した傾斜角度も、この種傾斜角度として極く普通の範囲のものであるから、引用例記載の考案においてこの数値限定がされていない点をもつて、本願考案が引用例記載の考案と別異の考案を構成するものということはできないとした審決の判断に誤りはない。

(3) 以上の理由により、本願考案は引用例記載の考案と同一であるとした審決の判断は正当であって、審決には原告主張のような違法はない。

3  よつて審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して主分のとおり判決する。

(荒木秀一 竹田稔 水野武)

〈以下省略〉

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